こんにちは。代表の菊地です。いつも〈栞日〉をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。

おかげさまで〈栞日〉は本日、開業10周年を迎えることができました。これは一重に、繰り返し通ってくださる地域のみなさま、温かく見守ってくださる各地のみなさまあってのことです。ありがとうございます。また、この10年間、さまざまな場面で、さまざまな形で、〈栞日〉とご一緒くださったアーティスト、クリエイター、取引先のみなさまに、深く感謝いたします。そして、毎日のこととして〈栞日〉を支えてくれている大切な家族と、家族同然の現役・歴代チームメイトに、心から、ありがとう。

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たかだか10年、されど10年。さまざまなことがありました。

2013年8月、当時26歳の僕が単身で松本の駅前大通りに開いた書店兼喫茶〈栞日〉は、それから更に遡ること7年、二十歳の節目を契機に始めたスターバックスコーヒーでのアルバイトが原点となって、大学2年の秋に描いた夢「暮らしたい街にサードプレイスを開いて暮らす」を具現化した店でした。

暮らし続けたい街を見つける。その街に加わると嬉しいピースを探す。当初から、その順序を想定していたので、静岡で生まれ育ち、つくばで学生時代を過ごした僕が、縁もゆかりもない松本に「就職先の旅館が、その街にあったから」という理由で巡り合い、「暮らし続けたい」と直感し、〈栞日〉を開くことに決めた、この一連の流れは、どこまでも偶然で、すこしドラマチックに云えば、運命でした。

〈栞日〉は、「暮らしたい街にサードプレイスを開いて暮らす」、そして、そのこと(サードプレイスを街に開くこと)を通じて「暮らしたい街に暮らさせてもらう恩を返す」生き方を選んだときに、そのさき僕がつくっていくサードプレイスたちに冠した屋号で、「栞を挿む日」を縮めた造語。当初から、喫茶店を起点とした多業態・多店舗の展開をイメージしてはいたものの、その構想に本屋は含まれていませんでした。書店兼喫茶という業態に着地したのは、〈栞日〉を開いた「暮らしたい街」が松本だったからです。

当時「暮らし続けていきたい」と直感した理由が、街の規模感であり、山と街の距離感であり、複数の街道が交差する城下町が故に育まれた町人の文化と気質であったことに気づき、その言語化を試みるには、相応の年月、実際にこの街で「暮らし続ける」ことが必要でした。「この街にはイマジネーションやインスピレーションの源を求める気配を感じるから、僕も好きな独立系出版物を中心に扱うセレクトブックストアを開いたら、たのしんでもらえないかしら」と仮説を立て、書店兼喫茶という業態を選んだ判断に、地域からフィードバックをいただく10年間でもありました。「自然が身近で文化的な地方都市」「ローカルだけれど程よくアーバン」。このバランスに魅力を感じて移住を望む声が多い街であることも、〈栞日〉を営みながら、すこしずつ知っていきました。


開業1周年を前に、パートナーが合流。入籍。以来、今日に至るまで、夫婦揃って店に立つことになります(のぞみん、いつもありがとう)。長男ハルキが生まれたのも、同じ年(2014年)。翌々年(2016年)、長女サキが生まれ、店舗兼住居だった住まいがいよいよ手狭となり、中山地区の平屋に転居。同じく手狭になってきた店舗を、いま書店兼喫茶〈栞日STORE〉を営んでいる建物に移転することも決まり、現在、上諏訪で古材屋〈ReBuilding Center JAPAN〉を営む東野唯史・華南子夫妻に空間デザインとリノベーションを、手書き結社〈WHW!!〉を主宰するCHALKBOY氏に店内サインを、それぞれ手掛けていただき、同年7月、開業3周年を目前に、移転リニューアルオープン。その年の秋には、以前の店舗を同じチームで改装して、毎回1組限定の中長期滞在型の宿〈栞日INN〉を開設(現在は〈日本まちやど協会〉に加盟する「まちやど」のひとつとして営業)。この時期から「空き家」や「移住」の対策をテーマに、松本市役所の担当課から意見を求められる機会が増え、それが現在の行政との関わりにもつながっていきます。

それまでも週末を中心に信州大の学生や友人にアルバイトとして手を貸してもらってはいたものの、平日も含めフルタイムで一緒に仕事に取り組む仲間を初めて迎えた、2018年の春。現在、ボタニカルシロップ「草譯」を製造する、〈KINO〉野村仁嗣さんが、その彼でした。翌2019年春には、独立開業した野村くんの後任として、現在、弁当宅配事業〈mama eats〉を営む本柳寛子さんを〈栞日〉に迎え、美術に明るい彼女のサポートのもと、女鳥羽川近くで友人たちが開業したテナントハウス〈List〉2階に「日用品」をテーマに扱うギャラリー〈栞日分室〉をオープン(2021年10月末運営終了)。頼もしい仲間たちに恵まれ、支えられ、業態としてもエリアとしても、広がりをもっていった時期でした。

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そして、2020年春。世界を、日本を、松本を、新型コロナウイルスが席巻します。

学生時代に幾度となく通った、黒磯〈1988 CAFÉ SHOZO〉の「旅人の目的地となる」姿勢を、もうひとつの原点に据えている〈栞日〉は、開業当初から居住者にとっても旅行者にとってもサードプレイス足ることを目指してきました(それ故、松本駅から徒歩圏内を出店範囲に定めていました)。世界がコロナ禍に陥って、僕は開業からそれまでの期間、〈栞日〉の経営が当初の想定以上に旅行者に頼ってきたことを痛感し、また同時に反省しました。

ちょうどその頃に舞い込んできた、本店向かいの銭湯〈菊の湯〉営業終了の話。運営を継承させてほしい、と先代に頼み込んでいる僕の姿は、この先の〈栞日〉の在り方を考えたとき、きっと自然と立ち上がってきたものでした。「親密で持続可能な地域経済の循環」。〈菊の湯〉運営継承が決まり、個人事業を法人化した上で、翌年の年初に〈株式会社栞日〉の事業理念における「OUR VISION」として掲げた言葉です。このとき〈栞日〉は明確に、地域と地域経済に寄与することを目的とした事業体として、新たな一歩を踏み出しました。同時期の2020年夏から2021年春にかけて、松本市の「基本構想2030」の策定に市民会議の委員のひとりとして参加していた偶然は、事業としての〈栞日〉と、個人としての僕自身の、その先に歩む道を定めるうえで、大いに影響していたことを、ここに添えさせてください。


この10年間を敢えて端的に言い表すことを試みるならば、それは、「僕」の〈栞日〉が「僕ら」の〈栞日〉へと拡張していくプロセスでした。〈栞日〉の所有格が「my」から「our」に変化していく10年間だった、とも云えます。それは狭義には、僕の自己表現であり、僕が好きで住まわせてもらう地域への僕の恩返しだった〈栞日〉に、家族が加わり、仲間が加わり、〈栞日〉がもはや僕個人の所有物や表現ではなくなった実態を意味しますし、より広義には、〈栞日〉という事業であり、その事業が営むサードプレイスのひとつひとつが、この地域とその地域を共にする一人ひとりの日常にとって、必要なときには必要とされる存在であってほしい、と強く願うようになった実際を意味しています。そして、その願いは、この春、僕自身が松本市議会議員として当選させていただいたことで、なおのこと揺るぎない信念となりました。


〈栞日〉のこれからを考えるとき、決まって思い出す言葉があります。「せめて100年」。服飾ブランド〈minä perhonen〉の創設者、皆川明さんが、その経営に寄せる想いを語った書籍『Hello!! Work 僕らの仕事のつくりかた、つづきかた。』の帯文であり、皆川さん自身がブランド立ち上げに際して記した言葉「せめて100年続くブランド」に由来します。〈minä perhonen〉松本店の開店は、〈栞日〉と同じ2013年の6月。先日、あがたの森文化会館講堂ホールで催された10周年企画にて、木工デザイナー、三谷龍二さんと皆川さんとの対談を拝聴した際も、同じ言葉を胸の内で反芻していました。

「せめて100年」。地域や社会にどれほど役立つ存在であったかを評価するには、適切な時間軸と考えます。「人生100年時代」と云えど、〈栞日〉が100年続く事業だったか否かを僕自身が見届けることは叶いません。けれど、せめてそのことを確信できる状態に事業を整え、世を去ることが、創業者の務めであると、いまは考えています。


壮大な話と思われたかもしれませんが、「場を開き、街を耕す。」を「OUR MISSION」に掲げる事業体として、〈栞日〉のそれぞれの事業所は、〈栞日STORE〉を、〈栞日INN〉を、〈菊の湯〉を、訪れていただいたきょうという日が、そのお一人おひとりにとって「栞を挿す日」となることを願い、日々の営業を続けています。7年前、〈栞日STORE〉移転リニューアルオープンに際して、詩人、ウチダゴウさんが書き下ろしてくださった詩「栞日」は、「すこしはぐれて あすは栞日」というフレーズで結ばれています。この地域に暮らすどなたかにとって、この街を訪れるどなたかにとって、〈栞日STORE〉が、〈栞日INN〉が、〈菊の湯〉が、各々の日常から「すこしはぐれて」向かう先になれたなら、と願っています。そして僕は、そのひとつひとつの「場/サードプレイス」の1日1日が積み重なって、100年の歳月を数えたとき、地域企業としての〈栞日〉の、次の役割の扉が開かれることを信じています。

二十歳の僕が、自身の事業に〈栞日〉と名付けたとき、講義ノートに記した所信表明が、10年前の開業当初からずっと、このサイトにも掲げられています。100年を見据えた11年目に入るにあたり、僕自身の胸に刻み直すためにも、その言葉を改めて綴り、この挨拶を結びます。これからも〈栞日〉を、どうぞ、よろしくお願いします。

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栞の日と書いて、sioribiと読みます。

栞の日。それは、流れ続ける毎日に、そっと栞を差す日のこと。

あってもなくても構わないけれど、あったら嬉しい日々の句読点。

さざ波立っていた心が凪いで、ふっと笑顔が咲くような。

今日が、あなたの栞日になりますように。


株式会社栞日 代表取締役
菊地徹