OUR PROMISE – 栞日の約束 -
「 a piece of / この時代と地域に相応しいピースを担う 」
今回、〈栞日〉の基本方針を体系立てた「事業理念」全体を、「OUR PROMISE」=「栞日の約束」と呼ぶことにしました。” a piece of ”は、この「約束」の題名です。遡ると僕らが過去に発行していたマンスリーレター(= イベントカレンダーを兼ねたフリーペーパー)も同じタイトル『a piece of』でしたが、このときも「この街にとって、ひとつの佳きピースになれたら」という願いを込めて、名付けました。「佳きピース」の「佳き」について、もうすこし解像度を高めると、「この時代と地域に相応しい」となります。この時代における、この地域社会の一員として、現在および将来のために、〈栞日〉が果たすべき最適な役割を常に考え、同じ地域社会を共有する「ピースたち」と協調しながら、自らの役割を実践する、そんなカンパニーでありたい、と願っています。
OUR PARTNER – 栞日は誰を笑顔にしたいのか -
「この地域社会 / その生態系を共にする一人ひとり」
「約束」ですから、その「約束」を結ぶ「相手」が居ます。それが「OUR PARTNER」。「この地域社会」そのもの、と定めました。これすなわち「松本」と置き換えてもよいのですが、その直後に「生態系」と続くとおり、すくなくとも行政区画や行政単位としての「松本市」に、さほど重きを置いていません。それよりも、より具体的かつ実質的に、「わたしたちの暮らし(これをこの先「地域経済」と呼んでいます)」を共にしている、という実感を伴う生活圏あるいは経済圏を、「地域社会」および「生態系」と捉え、〈栞日〉が笑顔にしたい「相手」、幸せにしたい対象、いわゆる〈栞日〉の「顧客」、として設定しました。従って、その境界は限りなく曖昧で、流動的。自分たちの暮らしを、自分たちの地域社会のなかで安定的に循環させるためには、どういった地理的範囲でその成立を目指すことになるのか、常に想像力を働かせる必要があります。
OUR VISION – 栞日が実現したい地域社会の風景とは -
「親密で持続可能な地域経済の循環」
〈栞日〉が「OUR PARTNER」と定めた「この地域社会」のメンバーと共に、目指したい「この地域社会」の姿は、「親密な地域経済(= わたしたちの暮らし)」が「持続的に循環している」状態です。これは、僕がこのコロナ禍に陥ってようやく気づき、悔い改め、至った考え。社会全体の人口減および高齢化に伴う低成長が前提条件の現代日本において、この先いよいよ予測不能な要素が増える一方であろうなか、まず何よりも大切なことは、「観光」や「催事」による消費を煽動して得るいっときの「外貨」ではなく、足元の「暮らし」の堅牢さでした。心豊かに生きる一人ひとりの日々が、確固たる基盤として先ず在って、その礎に立脚する健やかでまっとうな経済が、この地域のなかをたおやかに巡り続けていること。ちょっとやそっとではぐらつかない、堅実な「わたしたちの暮らし(= 地域経済)」を構築することこそが、ポスト・コロナの時代に、松本のような地方都市の価値(= 立地、規模感、自然環境などの「地域特性」であり「アドバンテージ/ポテンシャル」)を開花させる、ひとつの道だと考えます。
そこで鍵を握るのが、この地域社会の生態系を共にするメンバー間の「親密さ」。信頼関係に基づく地域内のメンバーシップを高めることが、「わたしたちの確かな暮らし(= 地域経済)」を「持続可能」で「循環」する仕組みとして駆動させるためには欠かせません。「親密さ」は、地域経済システムの循環を支えるエナジーです。「わたしたちの確かな暮らし」を共有する「わたしたち」が、ひとつの「大きな家族」のような、信頼関係(= 親密さ)で結ばれることが、〈栞日〉の目指す「この地域社会」の風景です。
OUR MISSION – 栞日が果たす役割とは -
「場を開き、街を耕す。」
〈栞日〉が目指す「この地域社会の経済システムが、持続可能な作法に則り循環していく」風景を実現するためには、地域内のメンバーシップを高め、その「親密さ」を醸成していく必要があります。では、そのために僕らには何ができるのか。何を成すべきか。〈栞日〉の果たす「役割」であり「使命」とは。そして、〈栞日〉の「存在意義」とは。こうした問いに対する答えは、個人事業として2013年に開業して以来この7年間、日々、店を営みながら取り組んできたさまざまな企画を、ひとつひとつ振り返りながら、それらに共通する本質を抽出しててみたところ、思いの外すんなりと、シンプルな言葉に収斂されました。それが、「場を開き、街を耕す。」。もうすこし言葉を添えるならば、「誰もが自由に出入りできるリアルな空間や機会を街場に対して開き、それらの場を創造的に営むことで、この街の地域特性(= アドバンテージ/ポテンシャル)を、それらが存分に活かされる状況に向けて、耕していく」こと。
「自由で創造的な場」で「誰かと誰かがリアルに交わること」が、未知なる化学反応を引き起こし、この社会の次の地平を拓き、親密なメンバーシップを醸成していくことにつながる、と信じるからこそ〈栞日〉は、「場を開く」そして「開かれた場を営む」ことを自らの「仕事」、換言するならば、この地域社会における自らの「ポジション」と位置づけます。また、かつての「百姓」たちが、その名(= 百姓:たくさんの苗字)のとおり、土に向き合う傍ら、自分たちの生活に必要なあらゆることを、個々の得意を活かしながら補い合い、支え合ったことに倣い、栞日も「現代の都市に生きる百姓」のひとりとして、この地域経済の循環に欠かせない「親密さ」を高め得る「場の開き方」に気づいたときには、それがどんな職種、業態、領域であれ、その可能性を耕していきたい、と考えています。常にオープンマインドな「街の百姓」でありたいのです。
そしていま、このさき当面のメインターゲットとして、〈栞日〉が耕していきたいと考える、この街のポテンシャルがふたつあります。言い回しが異なるだけで、いずれも同じ概念なのですが、ひとつは「We/わたしたち」という感覚、ひとつは「Commons/共」という領域です。あらゆる挑戦の主語を「I/わたし」から「We/わたしたち」にシフトしていくこと。あらゆる課題の所在を「My/わたしの」課題から「Our/わたしたちの」課題として捉え直すこと。「わたしの暮らし」の充足から、「わたしたちの暮らし」の構築へ。こうして、挑戦も、課題も、暮らしも、「共にしている、わたしたち」という感覚が耕され、拡張していった先に、「Private/私/ワタクシ」か「Public/公/オオヤケ」のいずれかに峻別することは憚られる「Commons/共」の領域が拓かれ、広がっていきます。この「私」と「公」の中間にあたる「共」の領域は、本来、人間社会の多くを占めていた(否、極言すれば「共」しかなかったはず)ですが、「私」の概念が現れ、「公」の役割が問われ出したときから、みるみるその両端に領土を奪われ、現代日本社会では、まるでなかったかのような扱いです。しかし、これからは、この「共」の感覚、すなわち「親密なメンバーシップを共にしている手触りであり手応え」こそが、「わたしたちの確かな暮らし(= 地域経済)」を支える時代なのではないでしょうか。だからこそ、この「共」の失地回復に向けた挑戦は社会全体の急務であり、「親密で持続可能な地域経済の循環」の確立を目指す〈栞日〉にとっても、最重要ミッションに掲げるに相応しいチャレンジなのです。
OUR MESSAGE「すこしはぐれて あすは栞日」
- あってもなくても構わないけれど、あったら嬉しい日々の句読点 -
「OUR MESSAGE」は、「OUR MISSION」の鏡として用意し、常に携え、折に触れて自分たちの姿を映し、その在り方を確かめるための言葉として設定しました。「OUR MISSION」が、主に対内的、つまり自分たちに向けて発せられる「約束」であることに対して、「OUR MESSAGE」は、主に対外的、つまり「OUR PARTNER」、すなわち「この地域社会」そのものであり、「その生態系を共にする一人ひとり」に向けて発せられる、〈栞日〉からの「約束」です。
メインメッセージの「すこしはぐれて あすは栞日」は、詩人・ウチダゴウさんが、2016年の〈栞日〉移転リニューアルに合わせて書き下ろしてくださった詩『栞日』の結びの一節。サブメッセージの「あってもなくても構わないけれど、あったら嬉しい日々の句読点。」は、僕が2013年の〈栞日〉開業に際して、そのWEBサイト内「ABOUT」ページに寄せた言葉(さらに遡ると2006年、学生だった僕が〈栞日〉をつくることを決めたときに、授業そっちのけで講義ノートに綴った事業コンセプト)からの抜粋です。いずれのフレーズも、〈栞日〉が街場に対して開き、営む場は、どのような空間であってほしいか、その空間に流れ、漂うときは、どのような時間であることを願っているのか、その性質であり性格を言い表しています。
すなわち、〈栞日〉が営む場はいずれも、日常と確かに地続きなところに(心理的にも、物理的にも)あって、入ろうと思えば誰もがいつでもアクセスできて、世間や日々の喧騒から、ちょっと距離を置く(= 「はぐれる」)ことが許される空間でありたい、と願っています。ひとり、呼吸を整える。誰かと言葉を交え、重ねるなかで、いつしか呼吸が整う。方法は、ひとそれぞれでしょう。でも、互いに互いの時間をリスペクトし合える、自由で寛容なエスケープ先でありたいし、誰に対しても、ニュートラルで、フラットな場でありたい。そして、そのような性格の場であればこそ、その場を共にする一人ひとりが、ニュートラルでフラットな自分自身に立ち返り、そのひと本来の創造性を遺憾なく発揮できる心身の状態にリセットされることが叶う、と考えます。そうしてリセットされた個々人が、その場で、あるいはその「句読点」を経て戻った先の日々の中で、誰かと交わったとき、あらたな創造性のセッションが起こり、この社会の次の地平を拓き、親密なメンバーシップを醸成していく。〈栞日〉が開き、営む場が、そんな未来につながっていくことを、信じています。
OUR VALUE – 栞日としての判断および行動の基準 -
「それは、独創的な別解か。」
〈栞日〉で(の)仕事に取組む一人ひとりが、常に心に留め、自らに問いかけたい、「判断基準」であり「行動指針」が「OUR VALUE」です。文字どおり〈栞日〉として大切に考えている「価値観」であり「ものさし」とも云えます。
まず、スローガンとして「それは、独創的な別解か。」という「問い」を据えました。より詳しくみていったとき、次の五つの「問い」が設定できました。
01_相手の経験と価値観に、敬意と誠意を尽くしているか。
あらゆる仕事には必ず「相手」が存在します。「顧客」はもちろん、案件によっては「協力者」や、場合によっては「反対者」も。その「相手」が、誰であろうと、個人であろうと、組織であろうと、若年者であろうと、年長者であろうと、その「相手」には、その「相手」の、これまでの「経験」があって、その中で形成された「価値観」があります。そして、それらの「経験」や「価値観」には、優劣はなく、どれも等しく尊いことを、まず肝に銘じる必要があります。そこから、すべての仕事は始まります。「相手」に対するリスペクトを忘れず、常に誠意ある言動を心がけましょう。
02_世間の慣習と常識を疑い、個人の直観と良識を信じているか。
この先は「VUCA[ブーカ]」の時代と云われています。すなわち、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」が高い時代です。そんな不安定で不確実で複雑で曖昧な時代に巻き起こる、数々の課題と向き合うときは、まず、これまで世間一般に信じられてきた、慣習や常識を疑う立場から出発する必要があります。「ある課題を引き起こしたマインドと同じマインドでは、その課題を解決することはできない(アインシュタイン)」からです。そのとき頼りになるのは、一人ひとりの「直観」と「良識」。目の前の状況を「真っ直ぐ観た」とき、つまり、リアルな視覚を通して観察したとき、ニュートラルな立場から最も健全と云える考え方および態度を見定め、選び取り、具体的な行動に移すこと。これは「VUCA」の時代をサバイブする術として、従来の計画ありきの「PDCA(Plan/Do/Check/Action)」サイクルに代わり注目される、フレキシブルな「OODA[ウーダ:Observe(観察)/Oreint(仮説構築)/Decide(意志決定)/Act(実行)]」ループの理論にも通じます。なお「直観」の表記は、ものごとをイメージとして捉える「直感(Feeling)」ではなく、柳宗悦が繰り返し唱えた「直観 / 直ちに観る / ものそのものを直に見届けること」の考え方を敬服し、拝借しています。
03_自己の想像力と創造力を駆使して、相手や課題に向き合っているか。
どれほど時代や状況が不安定で不確実で複雑で曖昧なものになったとしても、人間が決して手放してはならない武器が「想像力(Imagination)」と「創造力(Creativity)」だと信じています。課題解決に向けたあらゆる取組みは、「相手」の立場や状況、「課題」の根源や本質に対して、真っ直ぐな観察に基づき「想像力」を尽くすことから始まります。精一杯に想いを巡らせ、「相手」や「課題」を理解するための努力を怠らないこと。その上で、世の中の慣習や常識に捕われることなく、自由で伸びやかな「創造力」を羽ばたかせ、解決策の仮説を構築していきます。その仮説が「想像力」と「創造力」を尽くした末の結晶だと、自分に誓うことができたなら、あとは「やる」と決めて、実行あるのみ。
04_各々の自主自律に基づく、協調協働の関係性を保っているか。
この先の時代に立ちはだかる課題を解決しようとしたら、多くの場合、ひとり/ひとつのチームでは歯が立たず、同じ課題を共有する(チーム内外の)メンバーたちと「協調協働」することになります。そのとき、忘れてはならないことが、まず各々が(= 一人ひとりが/チームひとつひとつが)、そのフィールドにおけるインディペンデントなプレイヤーとして「自主自律」できているか、ということ。共通の課題に共に立ち向かうパートナー/メンバー同士の、パートナーシップ/メンバーシップが発揮される局面は、互いが/関係する全員が、独立した主体である場合に限ります。相手の/誰かの資質や好機に倚りかかるような態度では「協調協働」と呼べません。
05_これまでの正解ではなく、あたらしい別解を編み出しているか。
上の四つの「問い」を経て、改めて自らに向ける五つめの「問い」は、スローガン「それは、独創的な別解か。」の問い直しです。その判断や行動は(= 実行することに決めた仮説や、その仮説を実行するときの態度であり作法は)、過去に世間で定まっている「正解」をなぞったものではなく、いま自らの叡智を賭して編み出した「別解」なのか。相手に敬意と誠意を払い、自分の直観と良識を信じ、想像力と創造力を尽くした仮説を立て、課題を共にするパートナー/メンバーと互いの自主自律を損なうことなく協調協働を展開することができたなら、その「独創的な実践」はきっと、この時代の、この地域社会の、次の地平を切り拓く、あたらしい「別解」であり、その「別解」を重ねた先に、僕らが見たいこの地域社会の未来の景色が広がっています。
株式会社栞日 代表取締役 菊地徹