英語だと”Beautiful Friend”ね、と修子さんが教えてくれた。〈ベラミ人形店〉の「ベラミ」はフランス語で”Belle Amie”。ご主人・三村隆彦さんのお母さんが、その前身の手芸教室を始めた頃からの屋号だという。本町のブティックが実家で、そこで節句人形も扱っていたことや、幼い頃から日本舞踊を習っていたことから、お母さんにとって人形や手芸はとても身近な世界だった。
都内で日本人形の作り方を学んだお母さんは、実家の二階で手芸教室を開く。結婚を機に一度は旦那さんの故郷・諏訪に移るものの、間もなく松本に戻り、昭和三十二年、高砂通りに手芸屋を開店。その数年後には現在の場所に店を新築して移転。お母さんが日本人形とフランス人形を作っていた、というところまでは順当だが、驚くべきはお父さん。お母さんと一緒に手芸屋をやると決めたお父さんは、自分にも一芸なければ、と東京の羽子板職人に弟子入りして、つまみの技術を修得。それが松本市立博物館の学芸員の眼に留まり、いまも〈ベラミ人形店〉が守り続ける押絵雛の復元の仕事へと繋がっていく。
幼少期から「当然継ぐもの」と考えていた隆彦さんは、大学卒業と同時に帰郷して家業に入る。ある年の涸沢音楽祭で出会って以来、ずっと山友達だった修子さんと結婚してからは、小学生の頃に手芸クラブだったことを思い出した修子さんも加わって、夫婦二世代で手仕事に向き合う日々が続いた。お父さんは残念ながら五年前に他界なさったけれど、お亡くなりになる直前まで仕事を続けていらしたという。
現在も人形の注文は全国から相次ぎ、目の前の仕事にひとつひとつ取り組んでいる。やることをやるだけ、と言ってカラリと笑う三村夫妻の明るさが、かけがえのない松本の伝統を軽やかに紡ぎ続けている。
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text|toru kikuchi
photo|kokoro kandabayashi
MAY.2018