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学校帰りの高校生がスッと店内に入っていく。程なくしてまたスッと出てくる。夕方に窓際のカウンターで仕事をしていると、視界の左隅でときおり起こる出来事だ。〈栞日〉の西隣りには、画材屋〈シナノ画房〉がある。軒先に吊るされた絵の具のチューブ型の看板がいい味を出していて、ずいぶん長いんだろうな、と眺めていた。訊くと、もう半世紀になるという。伊那出身の西沢幸雄さんが脱サラして従兄弟とふたり、この場所に店を構えたのは昭和44年の暮れ。その頃の駅前通りは歩道が広く、店先に椅子や机を出せたそうで、美術部の生徒が集まって来てはスケッチに励んでいたそうだ。当時、各地で盛んに開かれていたアマチュア絵画教室を巡って画材を販売していたことが、高校の美術教師の間で評判を集め、学校納品の仕事に繋がっていく。数年前、次男の崇さんが「店を継ぐ」と大阪から戻って来た。「大阪時代のバーテンダーもそうだったけれど、その世界に飛び込んだらぐんぐん好きになるタイプ」と崇さん。いまは画材屋の仕事に興味が尽きないという。「家に絵を飾る生活がもっと普通のことになれば」と語る2代目がお隣りにいると判って、無性に嬉しい気持ちになった。  

text|Toru Kikuchi
photo|Kokoro Kandabayashi

APRIL.2018