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▼ 日程|2022.4.29[金祝]- 5.15[日]
▼ 会場|栞日STORE 2F 企画展示室

墨汁と筆でプリミティブな図を描く画家・林青那が、初となる大判作品集『KUROMONO』をブックレーベル・Baciより刊行。出版を記念し、展覧会を開催します。衝動的な線の内に、静けさが漂う作品は、観る人の心を原始の世界へと誘います。墨の強い黒と、そこから生まれるかたちを、是非お楽しみください。

林 青那

1989年生まれ。画家。幼少期より造形・絵画のアトリエに通う。2010年に桑沢デザイン研究所を卒業後、イラストレーターとして墨一色の静物画を中心に、広告や書籍などのイラストレーションを手掛ける。2016年より画家としても活動をはじめ、墨汁と筆による抽象画などを国内外で発表する。


それまでさまざまな場面で目にしてきたイラストの描き手の名前を知ったのは、名古屋〈ON READING〉の出版レーベル〈ELVIS PRESS〉から『monobook』を入荷したとき。あぁ、あれもこれも、林青那さんの仕事だったのか、と。平易な表現になってしまうけれど「格好いい線を描くイラストレーターさんだなぁ」と、シンプルに魅了されてきました。

だから、2019年の冬、林さんの展示『CHROMONO』を観るために〈ON READING〉を訪ね、その作品群に触れたときは衝撃で。「なんだこれは」という戸惑いと震えが止まらないなか、直観でひとつの作品を選び、買い求めていました。帰り際、店主の黒田義隆さんに訊くと「最近はこういう抽象が主で。いいですよね」と。「いい。とても、いい」。これまた平易な言葉で恐縮ですが、僕はますます林さんの表現が好きになっていきました。そして、このときから林さんのことを、イラストレーターではなく、画家と捉えるようになりました。

今回、作品集『KUROMONO』刊行記念の巡回展を〈栞日〉でも開催していただける、という栄誉にあずかり、版元〈Baci〉の内田有佳さんから「この大きな作品を展示できるスペースはありますか」とメールで連絡をいただきました。篠山〈archipelago〉に掲げられた、幅約90cm、長さ約150cmの三部作の画像は圧巻で、僕はその写真の向こうに、旅先の倉敷国際ホテルで観た棟方志功の板画であり、故郷の静岡市立芹沢銈介美術館で観た芹沢銈介ののれんであり、あるいは、日本民藝館で観た柚木沙弥郎さんの型染布を、観ていました。そして、河井寛次郎のあの文字が、脳裏に浮かんでいました。

「仕事が仕事をしてゐます」

林さんの筆は、その生命の衝動に対して、素直に墨汁を走らせます。だから、まっすぐに観るひとの心を捉えます。胸を打ちます。実際に〈栞日〉に展示された、三部作のうちのひとつの作品を眺めながら、僕はその確信を深めました。これは、きっと民藝だ。

先日、林さんと内田さんがふたりでいらして、風薫る松本、「工芸の五月」の幕開けに相応しい展示空間を仕立ててくださいました。ぜひ会場で原画のエネルギーに触れていただけたら。

松本の民芸館も、駒場の民藝館も、僕は雨の日が好きですが、林さんの『KUROMONO』も、きょうのような少し肌寒い雨の日に、展示空間に身を置いて、ひとり静かに佇んでいると、より細やかな声が聴こえてくるように思えました。

菊地徹 / 栞日