松本在住の画家、小沢夏美さんとは、開業以来のご縁です。〈栞日〉での最初の個展「3階からきこえてくる羽のおと」は、2014年の夏。翌2015年の同じ季節にも2度目の個展「7月の猫」を開きました。いずれも、まだ〈栞日〉が現店舗に移転する前のことです。2016年の移転後は、2018年の夏に開催したグループ展「本と食」への参加に留まっていましたが、この間も、ときおり店に顔を出しては焼菓子を買い求めてくださる夏美さんとのやり取りは続いていました。そして、この週末 3.20[土]から、〈栞日〉では久しぶりの個展「日々のカケラ・春のカケラ」を開催します。
タイトルにもある「日々のカケラ」は、夏美さんが日々、日記の代わりに描いている絵のこと。「#日々のカケラ」で、短い言葉を添えながら、InstagramとFacebookにも、毎日のように投稿しています。彼女のこの一連の投稿に、僕の眼が留まって暫し動けなくなってしまったのは、昨年の春。より正確には4月。すなわち、一度目の緊急事態宣言下のことでした。例えば、「20200409」と右下に記された絵には、こんな言葉が綴られています。「絵を描くということは おもいでを記録すること 今を生きること みらいに希望を描くこと」。「20200416」には「いろんなきもちの狭間にいる それでも絵を描くことはやめないよ」。「20200419」、「春のにおいを おもいきり すいこみたい」。
「いま」の切実な想いを素直に記した夏美さんの言葉に惹き込まれると共に、僕が動けなくなったもうひとつの理由は、これまで「猫」や「鳥」などの愛らしいモチーフが象徴的だった彼女の絵から、一切の具象が姿を隠し、抽象だけで描かれる日が増えていったことでした。そして、僕は、その変化を直観で「好きだ」と感じました。彼女のもうひとつの自然体を、知ったような気がしました。その素の表現を、まだ知らない誰かに伝えたい、届けたい、と思いました。
〈栞日STORE〉2F企画展示室での催しを断念してから、もうすぐ1年が経ちます。次に再開するときは、夏美さんのあの絵たちから、と決めていました。ようやく、そのときが巡ってきて、今夜、搬入にやってきた夏美さんが設営を終えた展示室を眺めて、ずいぶん長いあいだ会っていなかった大切な友人と再会したような安堵感に包まれました。夏美さん、ありがとう。
2020.3.19[金] 菊地徹/栞日代表
小沢夏美「日々のカケラ・春のカケラ」
▼ 会期|2021.3.20[土]- 4.5[月]
▼ 会場|栞日STORE 2F 企画展示室[長野県松本市深志3-7-8]
小沢夏美 × 瀬戸信行(クラリネット)「LIVE PAINT」
▼ 日時|2021.3.20[土]17:30開場 18:00開演
▼ 会場|栞日STORE 1F ※ 通常営業16:00終了
▼ 料金|¥2,500 + one drink order
※ 換気、消毒など、必要な感染症対策を講じたうえで、少人数で開催します。
※ 当日、体調が優れない場合は、ご来場をご遠慮ください。
※ マスク着用に、ご協力ください。
小沢夏美[おざわ・なつみ]
画家。長野県松本市在住。2001年より個展を中心に絵画作品の発表を続ける。挿絵の仕事のほか、絵の具を使ったワークショップ、イベント装飾なども行う。