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▼ 日程|2018.4.27[金]- 5.28 [月]
▼ 会場|栞日1F企画展示台+2F企画展示室

今年も松本に「工芸の五月」の季節がやってきます。

〈栞日〉では『nice things.』とCHALKBOYによる「手の記す仕事」に着目した企画展を開催します。1F企画展示台には『nice things.』編集部の選び抜いた「手の記す日用品」が並び、2F企画展示室ではCHALKBOYの作品展が開かれます。

『nice things.』と出会ったのは2015年の夏。

当時〈松本PARCO〉地下1Fにあって、僕がこの街で一番好きだった新刊書店〈LIBRO〉が、いよいよ閉店の日を迎えようとしていた頃、最後にもう一度だけ〈LIBRO〉に行こうと、妻と連れ立って出かけたとき。いつも通りの順に棚から棚へと本を巡り、女性誌の前にやってきたとき、目に止まって、手に取ったのが『nice things.』だった。創刊6冊目の2015年9月号、特集は「The Local」。パラパラめくると、どうも他の雑誌と様子が異なる。しかも心地よい違和感だ。知っている店や人が載っていたのもあったが、その違和感の理由を確かめたくて、レジに持って行った。松本の〈LIBRO〉で最後に買った1冊になった。

落ち着いて通して読んでみると、改めていい雑誌だった。気になって、次号が出た頃に駅前の〈丸善〉に行って、またパラパラめくってみると、やっぱり、いい。また買った。その次の号も買って、その次の号も。毎号必ず、知人や友人や彼らの店が載っている。何だ、これは。気がついたら、僕にしては珍しく、いわゆる定期購読の状態になっていた。そればかりか出会う前の5冊も読んでみたくて、ほとんど使わなくなっていたamazonで一気に取り寄せてしまった。いまも我が家の本棚でコンプリート更新中だ。

気づいたのは、この雑誌には第一特集しかない、ということ。特集で取り上げられる人や店には偏りなく贅沢に見開き2回以上ずつ割いている、ということ(巻頭と巻末の連載すら、1つの見開きに対して1本の記事)。取材対象が都内だけでなく全国各地に及んでいる、ということ。などなど。いつのまにか、自身も取材を2回受け、店でも並べさせてもらうようになった。現在〈栞日〉で扱っている月刊誌は『nice things.』と『民藝』のみだ。

その『nice things.』の次号予告ページを担っているのがCHALKBOY。

初対面は2016年の初夏。ちょうど2年前に移転先(現店舗)のリノベーションを進めている最中だった。もともとあちこちで作品を目にしていたし、店でもその著書を扱ってはいたけれど、移転先の店内サインをオファーできることになったのは、新店の空間設計をお願いしていた東野夫妻(当時〈medicala〉現〈ReBuilding Center JAPAN〉)が親しい間柄だったから。CHALKBOYの仕事を目の当たりにできたのは、とても幸運なことだった。グラフィックの技術が抜群、というのは言わずもがな、僕が脱帽したのはそのサイン計画全体の秀逸なデザインだった。クライアント(このときは僕)と重ねる談笑の中からサラッと最善手を繰り出す様は、敏腕なコンサルと相違なかった。

その後も、同じイベントに出店する機会があったり、〈栞日〉主催の「ALPS BOOK CAMP」に出店してもらったり、程よいタイミングで再会しては、何か一緒に楽しいことがやりたいね、と話し合ってきた。今回、CHALKBOYの個展を〈栞日〉で開催するにあたって、その手描きの世界が伝えるメッセージの力強さを際立たせるパートナーとして『nice things.』が選んだ実直な手仕事と共演する、というアイデアを伝えたところ、快諾してくれた。

この企画展の打合せで『nice things.』谷合編集長と話していたとき、誌面に対して僕が感じた心地よい違和感の理由が判った。

人を綴りたいんです。

編集長のそのひと言が『nice things.』のすべてだった。だから、毎月ひとつだけのテーマに取り組むし、全国各地を取材対象にするし、掲載記事には分け隔てなく贅沢にページを使うのだ。店を紹介しているような特集号も、よくよく記事を読んでいくと、焦点は常にその店主にある。旬の情報を捕まえて拡声することが至上命題の雑誌という媒体において、『nice things.』は賞味期限付の情報から一定以上の距離を置き、自分たちの仕事は人と定め、熱心に人を訪ね、粛々と人を綴る。これはなかなか只者ではない雑誌と出会ってしまったものだ。この先が楽しみで仕方ない。

菊地徹 / 栞日